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宇都宮家庭裁判所 昭和54年(少)1567号 決定

少年 E・S(昭三六・七・二八生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

非行

少年は

一  昭和五四年五月五日午後五時頃大田原市○○町×丁目×番××号○○左官店従業員寮内D方居室において、同人所有の現金二万円位及び背広一着他一点(時価合計二万五、〇〇〇円相当)を窃取し

二  同年八月二八日午後五時頃前記従業員寮E方居室において、同人所有のカセツトテープデツキ一台(時価三万八、〇〇〇円相当)を窃取し

三  Aと共謀のうえ、同月三〇日頃の午前一〇時頃、前記E方居室において、同人所有のステレオプレーヤー一台他五点(時価合計一二万三、五〇〇円相当)を窃取し

四  Bと共謀のうえ、同年九月二日午後一一時頃、矢板市○○町××番××号F子方において、同人所有のカメラ一台他一点(時価合計一万四〇〇円相当)を窃取し

五  A、B、成人Cと共謀し、同月三日午前三時頃、前記F子方において、同人所有のテレビ一台他二点(時価合計七、五〇〇円相当)を窃取し

六  同月四日午後〇時ごろから同日午後四時ごろまでの間、矢板市〇△×××番地の×県営○△住宅×号棟×××号室において、法令により定められたトルエン酢酸エチルを含有するクリヤーラツカーを、ビニール袋を使用しみだりに吸入したものである。

なお、少年に対する五四年少第一五六七号は上記非行事実四にかかる同年少第一七二四号と同一事実に関する事件であるが、少年に対する非行事実の認定資料としては足りないもので、一七二四号をもつて必要証拠の追送補充を受けたものである。

適条

一~五の事実につき刑法第二三五条、三~五につき更に同法第六〇条。

六の事実につき毒物及び劇物取締法第三条の三。第二四条の四。

処遇

本少年については、非行性のいまだ根深くないことと、非行性が身につく時期に至るまでの生活史において誰からも同情を禁じ得ない家庭内の悪環境があり、幼少時以来無責任な父とその後妻により虐待されて、これがため少年の性格は少からず歪められてしまつたと推認できること、この二点に関し恐らく疑念の余地はないものと思われるところである。

資質鑑別の結果に徹するも、少年には防衛的自己不確実と即行刹那的享楽傾向のあることが認められ、その生活史上の諸問題が翳を落しているのではないかと窺うに足りる。しかし同時に、父に対する強い反感は抜きがたく、これが少年の現在の資質と相まつて他の一般非行への発条にならないとはいえない。本件非行自体に見られる若干の反覆的粘着的傾向はその疑を抱かせるといえる。

調査の段階で実父より上申があり、過去の少年に対する自身の冷遇を恥じ且つ詫びてこの際寛恕なる処分を願い、同人の知人の許での教育を施したい旨の申入のあつたことが認められる。これに対しては、父子間の長期間にわたる不融和を考えるとにわかに賛しがたいものがあるといわなければならない。

むしろ、少年に対しては、たとえ短期であつても収容のうえでの矯正教育に委ねることとし、規範性と社会性の涵養を図り、情緒不安定の要因を除去し、更に就業意欲を高めるのが現在最も適切な施策と判断される。

よつて少年法第二四条第一項第三号、少年院法第二条、少年審判規則第三七条第一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 岡山宏)

〔編注〕第一五六七号事件の記録中には、昭和五十四年九月二日の窃盗(非行事実4)についての少年の供述調書が含まれていなかつたため、家庭裁判所から、右供述調書の追送を促す連絡をしたところ、右窃盗と同一事実が第一七二四号事件として、第一五六七号事件の添付書類の写しに右供述調書を添付して追送致されたものである。

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